個展海外

スパニッシュな日々よさようなら

悦子のうちで飼っているのは乳牛なので、牛といえばやさしいメスの目しかしらなかったが、二週間画廊で頑張っていたのは、スペインの男々しいブル。戦いの前の殺気を帯びた赤い目に射られて、おお~と声なき声を漏らした人も多かったはず。
そんな迫力のある存在なのに、背景の黒と赤には絵の具のタッチは見られず、染めたかのようにあっさり。絵の具が一閃するのは目と顔の周辺の少しばかりである。隅から隅まで丁寧に塗ってある絵が多い日本では、このラフさはまさに驚くべきことだが、隅々系の絵が一生伝えられない臨場感を持つことも確か。
牡牛の精気が生々しく伝えられ、狂気の時を予感させるこの作品はまさにラテンの血のもたらすもの。いやらしさもいかがわしさもない純粋な一瞬だ。
フラメンコに魅せられ、踊りを習いにいったことがある。能の序破急と似て、白昼の明るさが一転闇に変調し爆発的なカタルシスを迎える一曲の構成は、人間の色々な感情を解放する祝祭劇そのもの。
踊りは一場だが、人生は何幕も続く。イグナチオの描く作品には、その一幕のなにげない一瞬に光をあてて、かけがえの無い一瞬へと転化させる力がある。光と闇と交錯する一瞬を画布に掬い上げているのだろう。
二週間このドラマたちと共に暮らし、その静かな孤独と、乾いた明るさに、激情はあるが陰湿さのない彼の地の詩人を思いおこした。
まだ見ぬナッチョことイグナチオ・ブルゴス氏は美也子女史によるとサービス精神が旺盛で愉快なお人らしい。9月にニューヨークのM.Y.Art Prospects で開催される彼の新作展を楽しみに待つこととしよう。
準備のため帰国した美也子女史と、先般牛になってくれた神戸の小野さんによる、「Women」像とともに今展のお別れを!

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