武井好之の島紀行Ⅲが始まった。武井の沖縄か、沖縄の武井かといわれるほどこの地に打ち込んで七年。当画廊から出発した島紀行展は沖縄での展覧会の往還を含めるとほぼ毎年開催されている。
出会いの衝撃をそのままに描いた島紀行・初回展「夏至南風カージーベー」では島を渡る風にたくして環礁や島の風俗などをみずみずしい感性で表現し、見る人を驚かせたものだった。その後、島の人々を連続的に描くシリーズや沖縄百景シリーズなど次々と意欲作を発表している武井が本展では初心の感動に寄り添うように環礁シリーズに挑んできた。
七年の歳月が武井好之に何を与えたのか、東京沖縄の往還を通して出会ったものの集積がここに昇華されているといってもよい力のこもった作品群だ。画廊の横一面に広がる景は伊是名の海岸線。陸地部分は省略して珊瑚礁の広がる海岸から海を俯瞰した構図は大胆で、今までにない強いインパクトを絵に与えている。非常に繊細で克明に海岸線の構造を追いながら、抽象画のような印象をもたらすこの作品で武井は新境地を拓いた。
月探査機「かぐや」から見た地球が美しいように、地球が水で覆われた惑星であるということをしるには距離が必要だ。セスナ上からこの視点を得た武井は、これをどう自分の表現で描くかを課題としてきた。美しいものをそのまま写しても感動までは伝わらない。自分のどこでどう表現するか、画家としてはここが一番肝要な部分である。
武井好之は海岸線の複雑な構造と波形をリアルに追いかけることでーいわば天然の地形の抽象性を利用してーある人には具象的なものに見え、ある人には抽象的なものに見えるスタイルを画面のなかに作り上げた。作品Izenaには明確にその意図が感じられ、ストレートにその造形の不可思議さに引き込まれるが、長く見ていると抽象に見える波形の上に風が流れ、下には珊瑚礁が隠されている様相が次第にあきらかになってくるのである。大げさにいえば具象のなかに抽象がかくれ、抽象のなかに具象がみえる、というなにか哲学的な摂理をこの美しい環礁にみた驚きが感じられる画面といえばいいのか。
この作品をはじめ、Ukibaru など上空から雲、陸地、海岸、珊瑚礁、海底と順に視線を奥に送ると、薄い水の膜が地表を覆っているに過ぎないこの星の、奇跡的な美しさが肩の力を抜いた柔らかなタッチで描かれていて見飽きる事がない。
この海の青さを表現するのに、日本画の絵具だけでは無理だと判断し、ありとあらゆる試行をしたのだという。まさしく絵にも描けない沖縄の海の青。ヨーロッパでも青の絵具は中世から大変貴重なものだったときく。粉っぽく沈みがちな岩絵具では到底あらわせないこの色をどう出すかも今展の命題だった。水や空気を描くというのは大変な力量がいる仕事だが、この色をさけて島は描けない。無事、快晴の沖縄の海となった次第は画像を見て下さった方には納得の沙汰ではなかろうか。
はやくも武井好之には那覇・りうぼう夏の陣が待ち受けている。
武井好之展ー島紀行VI
武井好之展ー島紀行Ⅲ
武井好之展ー島紀行