個展

松崎和実展ー箔画Ⅲ

三度目の松崎和実展が始まった。「箔画」とは松崎の造語で、和紙に張った箔に描画し、それを切り抜いてアクリルに挿み額装上に浮かせて展示する形式をいう。日本画とも切り絵ともガラス絵とも違う、彼独特の技法に「箔絵」と名付けて発表しはじめて五年になる。
1969年宮崎生まれの松崎は、上京とともに前衛水墨画集団の「IZAM-Internatational Sumi Art Movement」に参加、2004年まで水墨画の世界で旺盛な活動を展開していた。その活動に一区切りつけ独自の方向に向かうきっかけになったのは、ある藩の江戸時代の魚類図譜を見る機会を得たことという。精緻な図譜に残された魚たちに魅了された松崎は、自ら編み出した技法でこれらに迫る現代の「魚類図譜」を描こうと思い立った。以来、ライフワークと位置づけて描いた「魚類」は今展で#186を数える。
2006年小林米子との二人展以降当画廊で毎年個展を開催し、その都度新たな出会いを広めて東京美術倶楽部「正札会」や、高島屋美術部企画の全国巡回「美術水族館」出品などで、その仕事を評価されてきた。2009年には故郷である宮崎の都城市立美術館で念願の個展を開催、初めて郷里の人々にお披露目するなど、着実にその努力が実を結びつつある。
初めて彼の仕事をみた人々は一様に目を丸くするのは、そのあまりの真にせまるリアリティによるからだ。描いた箔を切ってアクリルに挟むというのも常識を覆すが、箔を利用してここまで鱗を描いた画家がいただろうか。江戸期の図譜の克明さに驚いたという松崎が、それを上回るものを描こうとした時、発想したのは今までにない意表をつく技法だった。描くのは魚体だけではない。同時に物理的な魚影をそこに生じさせることで、あたかも水中にいるが如き絵画空間をつくるのだ。けっしてアカデミズムには発想できないこの方法によって、松崎は見る人を絵空事から水面へといざなう。
三度目の個展である今展ではますます腕に磨きがかかり、水深の深いところの魚には番手の粗い岩絵具の黒を、浅いところの魚には細かい水色をと使い分け楽しいコントラストを作っている。また特筆すべきは作品「頂点眼」の尾びれの描写だろう。この作品は写生によりながら、写生を離れた世界を醸し出している。古閑の格調があるとみたが如何か。
図譜の細密からまたひとつ世界を広げ、ゆったりとまた無心に水中にある魚と心を通わせ閑雅なひとときに遊ぶというこの境地に、松崎和実の新しい可能性を見いだしたのは私だけではあるまい。

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