個展

倉地比沙支展 リトエッチングの白と黒

四年ぶり二回目の倉地比沙支展が今日から。リトエッチングという聞き慣れない技法を駆使して、古代とも近未来ともつかぬ版画を制作する倉地画伯。愛知芸大版画科の講師をしつつ、タイのバンコクシルパコーン芸術大学に招聘されて半年滞在、現地で制作展示するなどの他、ハンガリーやポーランド、イタリア、ノルウェイ、韓国の国際版画展で受賞のキャリアをもつ、いわば愛知の星。
なんといってもリトエッチングの唯一無二の技法保持者。なにせ一人しかいないから、草分けにして大御所。倉地リトと命名してもいいかも。正確にいうと、多摩美の小作青史先生から教わったのだそうだが、小作先生本人も今は使ってない技法を、愛知芸大の草深い研究室でコツコツ10年がかりで進化させたらしい。
画廊では、版画界のいろんな方が来て、あれはどうやってやるのか、これはこうしてるんだとか、技法の質疑応答が世間話のように行き交う。倉地画伯の図解つきご説明によると、金属版をエッチングなどで窪みをつけ、凹部を油性反応させて、ゴムローラーでインクを押し込み、エッチングプレスで刷る、というものらしい。
この技法によると白と黒の盛り上がりの差が大きいので、よりシャープな仕上がりになるとか。なるほど、情感などの曖昧さが消えカラッと強い世界だ。渾身の思いで描きこんでいながら、刷り上がると白と黒の信号になるのが面白くて、という画伯。学生時代は油画で、卒制は大学買い上げになったのに、それを捨ててこの技法を選んだのは、強烈なものを描いても、突き放したドライな感じになるからだそうだ。
先年の個展の折には、繁茂する植物の無気味なまでのエネルギーを描いたが、タイ滞在を経て更にバージョンアップ。南方の果物の切ればぎゃっ!と声をあげそうな命そのものにふれ、生のリアリティとはなにかと、感じとってきたらしい。
描き込めば描き込むほど逃げていくリアリティと、ウソものほどホントらしく見えるということの間を、彼の世界は追求する。モノが腐っていく匂いとか、雑駁なほこり臭さも含めての現実感が、急速に失われていくなか、倉地画伯の現出させる作品世界は、なにか万物のDNA図に他ならないように見える。
現前するモノを前に、日本的もののあはれ、ではない方向から印象を捉えようとする彼の視点は、存在と非存在の間を行き来しつつ、その向こうの原型を見いだそうとしているようだ。
不可思議な夢のようにここにある作品をみながら、妙な懐かしさを感じるのは何故だろう。ぼちぼち画廊にいながらしばらくこの夢にたゆたってみようか。
画像は初日の倉地画伯と、版画界の大御所岡部版画工房・岡部氏。

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