画廊ではおなじみの顔・平野俊一画伯の4度目の個展。え~まだそんな回数だったっけ?と思うが、毎年開催のラボ展で存在感を示しているせいだろう。
さて、今回のテーマは「blur」。ちなみに意味は、[名]かすんでぼんやり見えるもの、思い出などぼんやりしてるもの。[動]光景・意識などをぼんやりさせる、書き物をにじませる。などのことをいう。
平野画伯のコメントによると、「夕暮れから夜にかけて 眼鏡に頼らず裸眼で見たその風景は さらにかすんで または滲んで 事物の在処を消されてしまう しかし その時にはすでに私のメモリーには その光景がしっかりと焼き込まれているようなのだ」とのこと。
自宅近郊の散歩コースが取材地。夜の帳が街を覆い、人工の光が太陽に変わって瞬きだす頃からが平野画伯の今回の世界だ。都会のありふれた街に毎日繰り返される光景ながら、この美しさはどうだろう。郷愁のようになにか物悲しさをともなう懐かしさを思う。夜の世界を照らす光源はそれぞれだが、太陽のようにあまねくという訳ではない。その一灯の及ぶ範囲はおのずと決まっているからだろうか、孤独に何かを守っているようにも見える。その夜に向かって溶け出していきそうな人工の光のドラマを、自身の心象として描いたのが今展の作品たちだ。
滲む、歪む、ぼやける、世界はいろいろに表情を変え、確かな像を結ぼうとする意識を翻弄し続けるのだ。その流動する自由さこそ画伯が希求するものなのだろう。変幻する世界を彼は見続けて、そして描き続ける。